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いい推しの日

 カーテンレースの隙間から朝の柔らかな光が徐々に差し込んでくる。
 夜が明ける気配に眠りから覚めた瞼をうっすらと上げていけば、そこには真白いシーツの海と昨夜、共に身体を重ねた愛しい想い人の逞しい腕が視界に入ってくる。
 着痩せするタイプの彼は、常のスーツの上からは想像できない程、余計な部分のないすっきりとした筋肉が付き、昨夜は優しくも翻弄する力で自分を何度も乱していった。
 情欲を隠すことのない雄の顔をした彼を思い出し、その時の悦楽に身体がゾクリと震える。あんな顔もできる人なんだと今も胸がドキドキと高鳴る。
 腕の中から見上げた彼は、今は昨夜の激しさなんてなかったかのように穏やかな顔をして眠っている。それが何だか悔しくて、こっそりと少し先にある寝息で緩んだ唇に己の唇を寄せてみる。
 何度も触れるか触れないかの辺りで彼にキスをするのが隠れて悪戯をしているようで、それが何だがちょっぴりクセになりそうだった。

 薄明かりだった陽の光がカーテンの隙間から一条のラインを描く。
 眩しさに彼の瞼が僅かに震え、昨夜の強く自分を見据えていた瞳が今は柔らかな色を乗せて己を映した。
 まだ覚醒していない彼に今一度、ゆっくりと唇を合わして、そっと離れる。
 そして、朝の挨拶を言葉に乗せた。

「おはようございます、晃さん─────」


初出:2021.11.04

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