top of page

八月四日の祝福

 その場所はいつもより華やかに彩られていた。
 架南島の英雄として追悼された彼の墓前はいつも何かしらの花が添えられている。それが今日はいつもよりも少し多かった。そのことに、人々の心の中からまだ彼への記憶が薄れていないことに安堵する。
 ゆっくりと足を運ぶ。
 この場所で彼と対面するとまだ胸が軋むが、暗い顔を見せるわけにはいかない。自分のそんな顔を見ればきっと彼は困った顔で笑みを見せてくるだろうから。そして、こう言うだろう。
〝あなたにそんな顔は似合わない〟
「そうだな、今からお前と酒を酌み交わすのに、辛気臭い顔では美味い酒も不味くなる」
〝良い酒を選んでくれたんでしょうね〟
「勿論だ。最高級の酒を持ってきてやったんだから味わって飲んでくれ」
〝それは楽しみです〟
 にかりと笑った彼の笑顔が目の前で鮮やかに蘇る。
 周囲の花に負けずとも劣らない満開の笑顔。
 まだ色褪せることのない彼の笑顔の記憶にほっとする。そして、来年もまた同じ笑顔を自分の前で見せてくれることを切に願う。
 持ってきた極上の酒を二つのグラスへと注ぐ。
 一つを彼の前に。もう一つは自分に。

「誕生日おめでとう、剛」

 ちん、っと互いのグラスを軽く打ち鳴らせば、この時期には珍しい涼やかな風が柔らかく頬を撫ぜていった────。

©2024 OKINOYA

bottom of page