── 沖の屋
ワンドロお題「うちわ」
※ES旬のアイドルパロになります。
色鮮やかなライトがステージを煌びやかに照らしていく。
アップテンポな軽快な曲と、対比された二人の衣装がライトを反射させ、光の精霊が降臨したかのようにステージを思うままに舞い踊る。
同じく二人の歌声に合わせて会場内ではペンライトが光踊る。片方の手にはペンライト。もう片方の手にはファンサ用のうちわを持って。二人にどうにか気付いてほしくて熱烈なファンたちはマナーを守りつつも、彼らへのアピールを惜しむことなく振り続ける。
「〝こっち見て〟〝ウインクして〟〝手をふって〟〝投げキッスして〟〝ハートつくって〟……色々あるね。面白い」
舞台袖でファンたちが振るうちわのメッセージを読み上げていくしゅんは、一見楽しそうに見える。けれど、長年しゅんと共にいる旬にはしゅんが言葉ほど面白く思っていないことを知っている。現に口元は弧を描いているというのに目元が全く笑っていないのだから。
「しゅん、目が怖い。もうすぐ次のステージになるんだから顔」
「ん? 大丈夫だよ。ステージ上の俺は彼女たちの理想のアイドルなの旬も知ってるよね? 俺のこんな顔知ってるのは旬だけだよ」
秘め事を話すように耳元で囁かれる。自分の声よりもほんの僅かに高めの艶のある声が鼓膜を震わせ、ふるりと体が揺れる。こんな状況で二人きりでいる時のような声を出すのは本当にやめてほしい。
思わず赤くなりかけた頬を首を振って鎮める。
「で、何がそんなに気に入らないんだ? ファンサうちわなんて、どのアイドルのコンサートでも普通にあるだろ? 変なメッセージでも見つけた?」
しゅんの機嫌の悪さがうちわに書かれているメッセージだとおおよその見当はつくが、今さっきしゅんが口にした内容に特別なメッセージがあるようには思えない。
旬も袖口から会場内を見渡してみるが、確認できた限りで可笑しな内容のものは見つけられなかった。
訝しげに首を傾げていると、正面に立ったしゅんにジッと見つめられる。その視線はどこか拗ねているようにも見えて。
「〝こっち見て〟〝ウインクして〟〝手をふって〟〝投げキッスして〟〝ハートつくって〟」
「うん、定番のメッセージだな」
「旬がメッセージ読んで彼女たちにファンサするのを想像したらモヤモヤしたんだ!」
「え……」
思いもかけないことを言われる。まさかしゅんがそんなことを思っているとは思わなくて、返す言葉が一瞬出てこなかった。なぜなら自分たちはアイドルで、ファンを魅了してファンに支持されることで存在する偶像なのだから。それなのに言ってみればそのファンに嫉妬するなんて。
困惑する旬にしゅんは苦笑を返す。
「幻滅した?」
「そんなことない」
間髪入れずに言葉が出た。
しゅんのことを幻滅するなんてあり得ない。理性ではファンたちのことを思っていても、自分だって本当は──。
「俺も本当はしゅんが誰かに微笑んでるのを見ると胸が騒つくから」
アイドルなのにこんなことを思うなんて、いけないことなのは十分分かっている。だから衣装を着ている時は本当の自分を押し隠して、大勢のアイドルを演じていた。本音をずっと心の奥に隠して。
「でもしゅんがそんなことを言うから」
隠していたものが表に出てきそうになる。こんな、コンサート真っ最中の状況で絶対に出してはいけないものなのに。
それなのに、必死になって心の蓋を閉じようとしていた旬にしゅんが囁く。
「じゃあ、二人で彼女たちの要望を叶えてあげたらいいんだよ」
「え?」
言葉と同時に手を引かれステージへと連れ出される。途端に自分たちを呼ぶファンの声が割れんばかりに会場内に響き渡る。ステージに向かって振られるペンライトと可愛く装飾された色とりどりのうちわ。
書かれているメッセージを目で追えば、しゅんが「ほら」とある会場の一角を目配せする。
「〝抱きしめて〟だって」
そう耳元で囁かれたかと思った次の瞬間、しゅんに正面から抱き締められる。
「しゅ……んっ!」
突然のしゅんの奇行に焦り、すぐにでも身を離そうとした旬だったが、それよりも周りを黄色い叫喚の声に埋め尽くされる。〝可愛い〟だの〝もっと抱きあって〟だの悲鳴の理由にネガティブなものは聴こえてこなかったが、それでもこの状況はあとで絶対SNSで拡散されると思えば、早く離れなければならないはずだった。
それなのにしゅんは旬の葛藤なんて知らないとばかりに知らんふりをきめる。
「しゅんっ」
顔は笑顔を保ったまま。だけど、しゅんの体を押し返す。側から見たら二人で戯れてるようにも見えるのか、彼女たちの声はますますヒートアップしてくる。それにしゅんが便乗する。
「旬もちゃんとファンサしないと。ほら今度は〝キスして〟だって」
「〝投げキッスして〟だろ!」
都合よく言い換えるしゅんを咎めるも、どこ吹く風で気にする素振りも見せない。それよりも更に旬を抱き締めたまま顔を寄せてくるしゅんに、今度こそ絶叫が会場内を埋め尽くす。
それは会場外にも響き渡るほどの大音量で。あまりの声量にいったい中で何が起こっているのか。コンサートが終了するまでの間、中に入れなかったファンたちがじりじりとやきもきしていたのは言うまでもなく。
そして──、
「やっぱり拡散されてる……」
コンサート終了後の楽屋にて。
旬の懸念通り、早速E*Sのコンサートレポートと言う名の興奮冷めやらぬ投稿がSNSにアップされていた。ここから一ヶ月間「E*S」がトレンドランキングを網羅することとなる。
焦る旬と、どこか満足げなしゅん。
コンサート中の行動に苦言を呈する旬に、反省する素振りも見せないしゅん。
そんなしゅんに業を煮やした旬が、ランキングから名前が消えるまで接触禁止を言い渡すまであと少し────。
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いつも参加してないし、ずっと顔見せしてないからこっそり参加。参加表明もおこがましくてできないです。
お題を聞いて、思い浮かんだのがアイドルパロのE*Sでした。
ライブ中に堂々といちゃついてもファンから温かい目で見てもらえるE*Sです♡ きっとファンサうちわに〝抱きしめて〟って書いてたファンの子も「旬(しゅん)を抱きしめて」ってメッセージだったに違いありません。
ES旬はどうしてもE*Sばかり思い浮かんじゃいます。
あと毎度言ってますが、アイドルコンサート行ったことがないので、雰囲気とかファンのマナーとか色々付け焼き刃ですm(_ _)m
2025.03.01